鬼才のSteve JobsがAppleのCEOを辞任したニュースが伝えられました。新しいアイデアを統合して今までになかった世界を開く人は時々歴史に登場しますが、スティーブジョブスも間違いなくその一人でしょう。
このスティーブをしてアップル社創設も間もない頃、「これはすごいアイデア」といわしめたものがありました。アップルのオフィスがあるクパティーノからほど遠くないシリコンバレーのパルアルトにあったゼロックス研究所(PaloALoto Reserach Center:PARC)で開発されていたアルトというコンピュータです。
このコンピュータは1973年にアラン・ケイ(Alan Kay)と彼のチームが考案したダイナブック(意味は後述します)の一部を当時の技術で実現させたシステムでした。まだダイナブックの域に達していない事で暫定ダイナブックとよばれていました。今回はこのアラン・ケイに光をあてて彼がビジョンを持っていたパーソナルコンピュータの概念を私なりに稚拙ですが、議論をしたいと思います。下の写真がアルトです(Alto)。縦型のスクリーンに大型のディスクドライブ(2MB)を設置したミニコンベースのシステムです。当時新しい試みはマウスのポインター周辺機とビットマップ形式の画面でした。

アラン・ケイのことを述べた本があります。浜野保樹氏が著作制作したこの本は米国で出版された翻訳物ではなくて、アラン・ケイの代表的な論文の和訳、Altoに関する資料をベースにしてアラン・ケイのパーソナルコンピュータに対するビジョンをつまびらかにした秀作です。著作の中でもとくに浜野氏が書き下ろした『評伝アラン・ケイ』は平易で分かりやすく究極的なパーソナルコンピュータを目指したアランケイの考え方を噛み砕いた言葉で表現されています。

アランケイはパーソナルコンピュータを個人のアイデア、思考などを増幅させて具現化できるツールのようなものと考えていたのでしょうね。論文が書かれた頃は大型計算機をタイムシェアリングという形で一部の専門家がほぼ独占的にある目的のために使用していた時代でした。今日のように個人がPCを所有するという時代ではなかったのです。コンピュータとはその当時特定のプログラムにしたがって文字通り計算を行っていたもので、人間の思考を増幅させるというようなシロモノではなかったのです。
ダイナブックなる概念
このなかでアランケイは将来あるべきパーソナルコンピュータの概念を既に持っていたのでした。アラン・ケイとPARCのチームは知的思考の増幅装置としてのコンピュータはどのような形になるのかをいろいろな状況を想定して開発していったようです。その当時手に入るハードウエアの上に知的増幅装置を実現させるべくSmalltalkというソフトを開発したのでした。アランケイのいうダイナブックとはそのソフトウエアを意味していたように見えます。したがってまだその開発途中に会ったAltoを暫定なダイナブッックとよんだのでしょう。
彼らはいろいろな世代の人たちを選んでPARCでこのAltoを操作させてコンピュータプログラムが人間といかに干渉するのかを実験しました。とくに力を入れたのが人とコンピュータの間のインターフェイス(この場合はGUI:グラフィックユーザーインターフェイス)を重要視したのです。いわゆるWYSIWYG: What you see is what you get. という考えを導入したのです。
幼児はAltoの前で図形を描いてあそんでいたり、15才位の子供は更に進んで具体的な景色などを表現するための図形を描いたり、画家は自分の絵をキャンバスに描くのと同じようなパレットなどをプログラム上に用意をしたり、ある成人は経理処理のための表計算を行ったり、音楽家は鍵盤で音を入力したり楽譜を書いたりしました。そのためにPARCチームはSmalltalkとよばれるプログラムを用意したのでした。
このような個人に帰属した知的好奇心増幅コンピュータのことをアランケイはパーソナルダイナミックメディアと呼びそのコンピュータをダイナブックと名づけました。
実験をとおして得た結果をまとめたアランケイの論文があります。日本語訳は浜野氏によって上記に示した著書に納められています。英文: → Personal Dynamic Media paper PDF 下記はその表紙です。

この論文の考え方や結果の一部を紹介しましょう。
アランケイが考えているダイナブックの形。いまのIPadとそっくりですね。ところでスティーブジョブズはIPadをアランケイに贈ったそうですよ。このモックアップではスクリーンを手でタッチして操作するような考え方も既に含まれていたようです。

Alto上のマルチウインドウ。と現在のiMACのマルチウインドウ。画像の表現などは進歩がありますが、基本的な概念は同じですね。コンピュータ画面を一つの机と見なしてそこにはファイル(プログラムを含む)の棚、ゴミ箱などがあり、作業をするために書類を拡げるという感じをだしています。その書類が一つのウインドウで表されているのです。書類を何枚も重ねている様子。作業をする書類が一番上にあるのですね。

15歳の男子が設計した回路、回路の要素があらかじめ用意されていてそれを選択し接続することにより電子回路が作成できました。又その出来上がった電子回路の動作シミュレーションも可能でした。

音楽家が作成した楽譜。鍵盤から入力した音楽を楽譜に変換するソフトウエアがありました。

もう一つ興味深いビデオがあります。これはSmalltalkの開発者が解説しているホームペイジに掲載されています。
アランケイの解説が録音されていますが、ここの登場する女の子は2才。彼女にとって目の前にあるコンピュータ(これはマッキントシュ)は多分絵本の一種のようなものなのでしょう。マウスを使って図を書いてはそれを消し、ファイルをオープンしてまた新しい図形を書いています。
上記のビデオ以外にアラン・ケイが語るコンピュータによる教育の課題などのビデオなども収録されています。→ Smalltalk
アラン・ケイによると今のパーソナルコンピュータといえどもまだ彼の理想としたダイナブックの域に達していないそうです。今後インターネットとの絡みも含めて更に人の思考の増幅を促進するツールとしてのダイナブックが出来上がっていくのでしょう。コンピュータの速度も気になる所です。思考の鎖を繋いで増幅させるためには応答速度が速くないと意味がないということも述べています。1秒以上反応が遅れるとそれは増幅装置とはいいがたいといっています。まさしくその通りですね。
最後に彼の有名な且つ爽快な言葉を書き留めたいと思います。
The best way to predict the future is to invent it.
未来を予測する最良の方法はそれを発明してしまうことである。
このスティーブをしてアップル社創設も間もない頃、「これはすごいアイデア」といわしめたものがありました。アップルのオフィスがあるクパティーノからほど遠くないシリコンバレーのパルアルトにあったゼロックス研究所(PaloALoto Reserach Center:PARC)で開発されていたアルトというコンピュータです。

このコンピュータは1973年にアラン・ケイ(Alan Kay)と彼のチームが考案したダイナブック(意味は後述します)の一部を当時の技術で実現させたシステムでした。まだダイナブックの域に達していない事で暫定ダイナブックとよばれていました。今回はこのアラン・ケイに光をあてて彼がビジョンを持っていたパーソナルコンピュータの概念を私なりに稚拙ですが、議論をしたいと思います。下の写真がアルトです(Alto)。縦型のスクリーンに大型のディスクドライブ(2MB)を設置したミニコンベースのシステムです。当時新しい試みはマウスのポインター周辺機とビットマップ形式の画面でした。

アラン・ケイのことを述べた本があります。浜野保樹氏が著作制作したこの本は米国で出版された翻訳物ではなくて、アラン・ケイの代表的な論文の和訳、Altoに関する資料をベースにしてアラン・ケイのパーソナルコンピュータに対するビジョンをつまびらかにした秀作です。著作の中でもとくに浜野氏が書き下ろした『評伝アラン・ケイ』は平易で分かりやすく究極的なパーソナルコンピュータを目指したアランケイの考え方を噛み砕いた言葉で表現されています。


アランケイはパーソナルコンピュータを個人のアイデア、思考などを増幅させて具現化できるツールのようなものと考えていたのでしょうね。論文が書かれた頃は大型計算機をタイムシェアリングという形で一部の専門家がほぼ独占的にある目的のために使用していた時代でした。今日のように個人がPCを所有するという時代ではなかったのです。コンピュータとはその当時特定のプログラムにしたがって文字通り計算を行っていたもので、人間の思考を増幅させるというようなシロモノではなかったのです。
ダイナブックなる概念
このなかでアランケイは将来あるべきパーソナルコンピュータの概念を既に持っていたのでした。アラン・ケイとPARCのチームは知的思考の増幅装置としてのコンピュータはどのような形になるのかをいろいろな状況を想定して開発していったようです。その当時手に入るハードウエアの上に知的増幅装置を実現させるべくSmalltalkというソフトを開発したのでした。アランケイのいうダイナブックとはそのソフトウエアを意味していたように見えます。したがってまだその開発途中に会ったAltoを暫定なダイナブッックとよんだのでしょう。
彼らはいろいろな世代の人たちを選んでPARCでこのAltoを操作させてコンピュータプログラムが人間といかに干渉するのかを実験しました。とくに力を入れたのが人とコンピュータの間のインターフェイス(この場合はGUI:グラフィックユーザーインターフェイス)を重要視したのです。いわゆるWYSIWYG: What you see is what you get. という考えを導入したのです。
幼児はAltoの前で図形を描いてあそんでいたり、15才位の子供は更に進んで具体的な景色などを表現するための図形を描いたり、画家は自分の絵をキャンバスに描くのと同じようなパレットなどをプログラム上に用意をしたり、ある成人は経理処理のための表計算を行ったり、音楽家は鍵盤で音を入力したり楽譜を書いたりしました。そのためにPARCチームはSmalltalkとよばれるプログラムを用意したのでした。
このような個人に帰属した知的好奇心増幅コンピュータのことをアランケイはパーソナルダイナミックメディアと呼びそのコンピュータをダイナブックと名づけました。
実験をとおして得た結果をまとめたアランケイの論文があります。日本語訳は浜野氏によって上記に示した著書に納められています。英文: → Personal Dynamic Media paper PDF 下記はその表紙です。

この論文の考え方や結果の一部を紹介しましょう。
アランケイが考えているダイナブックの形。いまのIPadとそっくりですね。ところでスティーブジョブズはIPadをアランケイに贈ったそうですよ。このモックアップではスクリーンを手でタッチして操作するような考え方も既に含まれていたようです。

Alto上のマルチウインドウ。と現在のiMACのマルチウインドウ。画像の表現などは進歩がありますが、基本的な概念は同じですね。コンピュータ画面を一つの机と見なしてそこにはファイル(プログラムを含む)の棚、ゴミ箱などがあり、作業をするために書類を拡げるという感じをだしています。その書類が一つのウインドウで表されているのです。書類を何枚も重ねている様子。作業をする書類が一番上にあるのですね。


15歳の男子が設計した回路、回路の要素があらかじめ用意されていてそれを選択し接続することにより電子回路が作成できました。又その出来上がった電子回路の動作シミュレーションも可能でした。

音楽家が作成した楽譜。鍵盤から入力した音楽を楽譜に変換するソフトウエアがありました。

もう一つ興味深いビデオがあります。これはSmalltalkの開発者が解説しているホームペイジに掲載されています。
アランケイの解説が録音されていますが、ここの登場する女の子は2才。彼女にとって目の前にあるコンピュータ(これはマッキントシュ)は多分絵本の一種のようなものなのでしょう。マウスを使って図を書いてはそれを消し、ファイルをオープンしてまた新しい図形を書いています。
上記のビデオ以外にアラン・ケイが語るコンピュータによる教育の課題などのビデオなども収録されています。→ Smalltalk
アラン・ケイによると今のパーソナルコンピュータといえどもまだ彼の理想としたダイナブックの域に達していないそうです。今後インターネットとの絡みも含めて更に人の思考の増幅を促進するツールとしてのダイナブックが出来上がっていくのでしょう。コンピュータの速度も気になる所です。思考の鎖を繋いで増幅させるためには応答速度が速くないと意味がないということも述べています。1秒以上反応が遅れるとそれは増幅装置とはいいがたいといっています。まさしくその通りですね。
最後に彼の有名な且つ爽快な言葉を書き留めたいと思います。
The best way to predict the future is to invent it.
未来を予測する最良の方法はそれを発明してしまうことである。
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